賃金引き上げに向けた取組事例
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CASE STUDY 05
賃上げ取り組み事例 -
旭酒造株式会社
獺祭の製造及び販売
2023/2/1
さらなる高みへと進化し続ける純米大吟醸酒「獺祭」、美味しさにこだわり抜いた徹底的な品質の追求で世界に挑む。
- 企業データ
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- ●代表者:桜井 一宏
- ●本社所在地:山口県岩国市周東町獺越
- ●従業員数:240名
- ●設立:1948年
- ●資本金:1,000万円
- ●事業内容:獺祭の製造及び販売
5年で平均基本給を2倍に、獺祭にふさわしい「味」を追求する
日本酒「獺祭」で知られる旭酒造は、更なる品質向上に向けた将来への投資の一環として、賃金引き上げに取り組んでいる。同社は「5年で平均基本給を2倍」を掲げ、令和4年4月には製造部門の新入社員の初任給を月額21万円程度から30万円に引き上げた。それに先立ち、既存従業員の賃金も、引き上げ後の初任給に見合う額へ改定すべく、20~30%程度の賃金引き上げを行っている。いずれも、世界で高く評価されている獺祭を造る社員に対する会社からの評価の表れであり、社員の仕事に対する意欲を更に高めることが狙いだ。
賃金引き上げは、獺祭にふさわしい「味」を造り上げることを最大の目的として、スピードを重視して取り組んだ。当初は綿密な人事評価システムを作成することも検討したが、「良い酒を造ろうとする思い」という100%の言語化ができないものをシステマチックに評価することは難しく、評価に固執するあまり「良い酒を造る体制」を毀損することは許されない。また、人事評価システムの構築には一定の時間を要するため、それをしている間に社会・経済情勢が変化することもあり得る。システムによる効率化ではなく、味の追求を最高の価値と捉え、賃金引き上げという方針を掲げて取り組むこととした。
徹底的な品質へのこだわり、社員全員による酒造り
獺祭の製造工程においては、味の追求の理念のもと、品質の維持と向上のために膨大な人手がかけられている。中核を担う製造部門では、同社の従業員の半数以上、170人近い人数が製造に携わっている。省人化を指向せず、製造の過程で得られる膨大なデータを分析・活用しつつ、繊細さを求められる工程では酒造りを熟知した社員の手により作業が進められる。また、製造工程ごとに複数のチームが組織されており、それぞれのチームが品質向上に向け、様々なアプローチを行っている。今後もより高品質な獺祭を世界に送り出せるよう、社員は互いに切磋琢磨しつつ、品質の追求に励んでいる。
単に価格を下げることは人件費のコストカットに繋がるため、旭酒造は「良いものをより安く」という考え方はしない。世界を舞台に、高付加価値・高品質にこだわり抜いて造り上げた商品を安定的に提供し、それに見合った適正な価格で取引するというのが同社の信念だ。装置産業ではなく、人の手によって商品を造り上げていく同社にとって、人材への投資は必要不可欠なのである。
賃上げの好影響を背景に、社員の意欲向上と将来に向けた人材の育成
今般の初任給引き上げにおいて、社員のモチベーションも上がり、また生活の安定にも繋がるなど良い影響をもたらし、実施して良かったと評価している。賃金が都市部の企業と肩を並べる給与額になったことの価値は大きく、社員一人ひとりがものづくりの仕事に誇りを持ち、「獺祭」の品質を追求し引き上げてくれることで、賃金引き上げのコストをはるかに上回る成果に繋がると考えている。また、新規採用においても、採用枠の10倍程度の応募が寄せられるようになるなど、採用競争力が向上するとともに、ものづくりの道を断念していた人材の発掘、地域・専攻に関わらず幅広い人材からの応募が得られている。
同社は、今後、アメリカでの事業展開を予定しており、アメリカであっても獺祭はその価値にふさわしい価格で求められると確信しているが、このような人材はその将来を支えてくれるものと信じている。
今後は、酒造現場での仕事の面白さを社員が経験して、働きがいを学ぶとともに、会社への帰属意識を高められるよう取り組んでいく。社員が酒造りの中に存在するあいまいなものの中から自身のキャリアを勝ち取ってもらうことが重要であり、「獺祭」の味に誇りを持って働いてもらいたい。
従業員の声
製麹チーム 鈴木さん
獺祭というブランドに誇りを持ち、自分達が美味しいと思いながら、働いています。賃金が上がったことで、自分たちが造る獺祭の味が評価され、それが売れているのだということを実感しています。自由に使えるお金が増えたことから、プライベートで美味しい食事やお酒を楽しむと、さらに美味しい獺祭を造ろうというモチベーションが湧きます。チームとしても良い緊張感のなか、更に良いものを作っていこうという士気が高まっています。
仕込チーム 溝田さん
最初に賃金引き上げの話を聞いたときには驚きました。生活面も安定するし、美味しさに繋げていかなければという責任感が増しました。社員の間でも、年齢や立場、部署を問わず活発に意見が交わされ、会社も品質も良くしていきたいという意欲が感じられます。自分の仕事が社会と繋がっていると感じるし、このモチベーションを忘れずに持ち続けたいと思います。