賃金引き上げに向けた取組事例
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CASE STUDY 08
賃上げ取り組み事例 -
株式会社陣屋
旅館「鶴巻温泉 元湯 陣屋」の運営
2023/2/28
コロナ禍の厳しい事業環境の中、継続的な賃上げに取り組む
大正7年開業の老舗旅館。宿泊のみならず日帰り、宴会、婚礼の利用客に、四季折々に美しい100坪の庭園と温泉・料理の魅力を提供している。
- 企業データ
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- ●代表取締役社長:宮﨑 知子
- ●本社所在地:神奈川県秦野市鶴巻北2-8-24
- ●従業員数:43人(正社員21人)
- ●設立:1918年(大正7年)
- ●資本金:1億円(資本準備金9000万円)
- ●事業内容:旅館「鶴巻温泉 元湯 陣屋」の運営
従業員の就労意欲維持のために賃上げと働き方改革に併せて取り組む
全国旅行支援の効果もあって、2022年秋頃から日帰り客を中心に利用客が戻り始め、コロナ前には及ばずとも徐々に好調の兆しが見えてきた。そうした状況を背景に、同社は2022年10月に最低賃金額改定のタイミングで若手社員の基本給を33%、さらに全パート社員の時給を平均3.3%(最大14.5%)引き上げた。コロナ禍の厳しい事業環境の影響により早期の実現はできなかったものの、来たる2023年には全社員のベースアップと賞与の支給を行う計画としている。
しかし、賃上げだけでは従業員の就労意欲の維持には足りないという。旅館業では休暇を取得しにくいことが離職につながることが多く、その課題を解決したいという思いから、旅館陣屋では、休館日を設定し、週休3日制としている。これにより、社員は自分の時間を有効活用できるようになり、もっと稼ぎたいという若手社員には副業の許可も出すなど、これまでの旅館業では導入が困難であった、働き方改革、多様な働き方を視野に入れた取り組みを行っている。
賃上げの原資確保のために、様々な収益力向上策を進める
同社では、賃上げの原資を確保するため、IT活用などによる生産性の向上を軸に、収益力を向上させるための様々な取り組みを進めている。
2008年から運用を続けている自社開発のクラウド型ホテル管理システム「陣屋コネクト」は、予約をはじめ顧客やスケジュール、食材原価、会計処理、メール掲示板等旅館業務の全てを一括管理できることから、これにより業務効率を格段に上げることができた。この「陣屋コネクト」は、2012年から外販をはじめ、今や全国のホテル・旅館450施設に導入されている。
また、旅館陣屋は自社サイトからの予約率が95%と他の旅館・ホテルより圧倒的に高い。予約経路を解析した結果、観光地ではない鶴巻温泉を訪れる人は、旅先のエリアから入ってホテルを選ぶ通常の予約経路とは違い「陣屋」を目的地として予約していることが解った。そこで同社はOTA(Online Travel Agent)での販売をやめ、その手数料をなくすことで収益率を上げている。
さらに、ブランド力の強化もまた重要と考え、創業100年超の老舗という価値を生かし、顧客の人生の節目節目に利用してもらえる施設を目指す。女性ターゲットへのアプローチと旅館の総合力アピールにつながる婚礼商品の開発もその一環。20年後の顧客獲得につながる様々な取り組みを進めている。
サービス品質維持のためには従業員の定着が不可欠
ホテル・観光学校の教師は「ホテルに就職したが賃金が低くて続けることができない」という卒業生の声を聞くようになったという。人材確保の難しさは、旅館・ホテル業界全体の課題になっている。また、コロナ感染対策で従業員を削減した旅館が、対策緩和後に従来通り稼働しようとしても従業員が戻らず営業再開できないという話も聞く。このような人材確保の問題は、同社においても大きな課題となっている。高級化路線を進めてきた旅館陣屋には、現在の宿泊客単価約5万円に見合うサービス提供と気遣いができるスタッフが欠かせないが、一方で従業員が定着せず離職者が多いと品質の高いサービスを維持することはできないためだ。
旅館陣屋は、従業員の離職を防ぎ、また、高いモチベーションを維持するためには、賃上げが必要であると考え、今後も様々な収益力向上策を進めながら、賃上げを継続していく姿勢だ。