賃金引き上げに向けた取組事例

CASE STUDY 12
賃上げ取り組み事例

市村蒲鉾有限会社

食料品製造業

2023/3/20

業務改善助成金を活用した賃上げにより人材を確保し、老舗の技術と品質を伝承する。

水産の地・下関吉見地区で1938年に創業。蒲鉾、ちくわ、すまきなど、水産加工食品の製造や販売を手がける老舗。県内に4カ所の直売店を設けているほか、ネット通販で遠隔地の顧客にも販路を広げている。

company 企業データ
  • ●代表取締役:佐藤 大元
  • ●本社所在地:山口県下関市
  • ●従業員数:50名(パート従業員40名)
  • ●創業:1938年
  • ●設立:1951年
  • ●資本金:1000万円
  • ●事業内容:食料品製造業
company

業務改善助成金の申請を機に賃上げを実施

国が最低賃金を1000円以上に引き上げるという方針の発表を受け、大手企業に先駆けて賃金引き上げに取り組まなければと判断した。というのも、同社のような食品製造業は手作業が多く、どうしても人手に頼らざるを得ない。しかし、人手は不足しているため、創業85年の伝統的な味と技術を継承していくうえでも、従業員の離職を防ぎ、新しい人材を確保することは大きな課題となっている。そこで、2021年度の業務改善助成金の申請を機に、パート従業員の事業場内最低賃金(時間額)を91円引き上げた。また、長期間勤務しているパート従業員にはそれぞれに応じた上乗せも実施し、不公平感を生じさせない賃金バランスとした。賃上げの結果、とくに長期在籍しているパート従業員から感謝の声が聞かれたほか、60歳代以上のパート従業員の応募者が増え、「賃上げを実施してよかった」と佐藤社長は語る。

新機械導入で生産性を向上

同社は、業務改善助成金を活用して自動包装機械を導入した。それまでの機械は賞味期限の日付変更が手作業によるため慣れと時間がかかるものだった。新導入の機械はタッチパネルで賞味期限の日付変更も素早く誰にでもできるようになった。さらに一定の慣れと勘を要していた包装フィルムの張りや位置合わせなどの微調整も容易で、時間のロスが減少しただけでなく、オペレーターのストレスもかなり軽減された。また、同社のような小ロット生産では商品に合わせて包装フィルムの変更や設定が多く、それだけ手間がかかるが、新導入の機械では変更も容易となって生産性の向上に貢献し、賃上げの原資となっている。高齢者のパートタイム応募者が増えているという同社は、そうした方たちも含めた全従業員の負担が減るような職場環境の整備と機械の導入を常に考えている。

技術と品質を継承し継続的な賃上げを

食品産業は原材料の高騰にあえぎ、商品価格を上げざるを得ない状況に陥っているが、同社も例外ではない。しかし、同社の場合は、商品への価格転嫁による売上減少などの影響はなかった。それは味と品質によるものだろう。だからこそ同社が誇る「技術」と「品質」の継承はもっとも大きな課題だ。そのための人材確保には現在のパート従業員の時間額を上げ、また、正社員の初任給も上げる必要がある。それを基礎に従業員のモチベーションを高め、生産性向上に繋げられれば継続的な賃上げが実現できる。地域の食文化の担い手としての自負があるからこその取り組みだ。