賃金引き上げに向けた取組事例
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CASE STUDY 21
賃上げ取り組み事例 -
株式会社根本製菓
米菓製造、販売
2023/12/25
生産性の向上、利益率の向上を従業員に還元
昭和3年の創業以来、煎餅、おかきの味を守り続ける老舗の製菓店。政府の支援策を有効活用し、生産ラインの効率化による生産性の向上、販路拡大を実現。
- 企業データ
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- ●代表取締役:根本雅章
- ●本社所在地:茨城県筑西市
- ●従業員数:22名(2023年10月現在)
- ●創業:昭和3年
- ●資本金:1,000万円
- ●事業内容:米菓製造、販売
従業員に安心して働いてもらうことが、事業維持につながる
(株)根本製菓は、昭和3年の創業当時より続く伝統の製法により、煎餅・おかきの味を守り、地域の人達に愛されてきた。
伝統の技には自信があった。しかし、根本社長は危機感を持っていた。求人を出しているが、新入社員が入ってこない。根本製菓を維持していくためには、今頑張ってくれている従業員をつなぎ止めなければならない。その上、近年の物価高騰は従業員の生活を脅かしている。今いる従業員に、根本製菓で働くことで安心して生活ができると感じてもらうためには、賃金の引き上げが急務であると考えた。
賃金引き上げのためにはどうすればよいか。近隣の製菓業界は、同業他社も含め、売り上げが伸びない状況が続いている。また、社会情勢の変化により燃料費や原材料となる米や砂糖の価格高騰が経営を圧迫する。しかし、このような状況の中であっても、これまで協力してきてくれた従業員に報いるため、なんとか利益を出さなければならない。根本製菓をとりまく状況は厳しいものだった。加えて、年々、最低賃金の引き上げ額が大きくなっていることから、それを上回る賃金の引き上げに苦慮する状況も生じていた。
政府の助成金等を活用し、生産性向上、販路の拡大を実現
そのような中、地元商工会議所から業務改善助成金について聞いた。根本社長は、業務改善助成金を活用することにより、賃金を引き上げつつ、設備投資を行い生産性を向上させることができ、業績が上向けばさらに従業員へ還元することも可能と考えた。
根本製菓は、業務改善助成金を利用し、生産性向上に向けた設備投資として、金属検出機を追加購入した。金属検出は食品製造において、品質管理の面でも、危機管理の面でも必要不可欠な機械のため、これまでも製品を袋詰めした段階で金属検出機を通し異物混入を確認していたが、この作業には2時間を要していた。また、異物混入が確認されれば、袋ごと廃棄することとしていた。追加した2台目の金属検出機を用いて焼成前の生地成形の段階で検出することにより、作業に要していた時間を約40分に短縮することができ、尚且つ、廃棄する製品・包装資材が大幅に減り、生産効率も向上した。
根本製菓の取組は、業務改善助成金の活用だけにとどまらない。中小企業庁が設置する「よろず支援拠点」に相談し、小規模事業者持続化補助金を活用し、中小企業診断士、経営士からのアドバイスを受けることとした。経営の専門家による根本製菓の現状に関するヒアリングや今後の事業計画の検討を経て、これまで百貨店やスーパー、工場併設の直営店舗における販売のみであった販路の拡大を狙い、店舗内に煎餅の手焼体験工房をオープンした。手焼体験では、普段、自ら焼くことのない煎餅を、来店客自身の好みに合わせて焼くことができ、さらに醤油、ざらめ、七味唐辛子など用意された調味料で自分好みの味付けをすることができるため、地域の子供たちやお年寄りが団体で利用し、好評を博しているという。
今後は、自社HPを充実させ、インターネット販売を拡大することも検討しているが、これに対応可能な人材の確保が課題だという。
得られた利益を従業員へ還元する好循環を狙う
これらの取組は、一貫して生産性の向上、販路の拡大により得られた利益を従業員へ還元するという好循環を生むことを狙ったものだ。
昭和3年の創業以来、常に大切にしてきた伝統の技術と真心をこめた煎餅、おかき作り。
根本社長の語る会社のこれまでの取組と今後の展望は、製品に対する真心だけでなく、従業員に対する真心にあふれていた。