賃金引き上げに向けた取組事例

CASE STUDY 24
賃上げ取り組み事例

株式会社倉敷国際ホテル

宿泊・飲食業

2024/1/24

地域を代表するホテルが、生産性向上による賃金引き上げと働き方改革に取り組む

日本遺産として認定された倉敷美観地区で、創業60年を迎える歴史と格式のあるホテル。2023年の G7倉敷労働雇用大臣会合の会場の一つともなった。

company 企業データ
  • ●代表取締役:山口 勝正
  • ●本社所在地:岡山県倉敷市
  • ●従業員数(企業全体):220人
  • ●創業:1963年12月1日
  • ●資本金:5,000万円
  • ●事業内容:宿泊・飲食業
company

新型コロナウイルス感染症の影響から回復しつつある中、人手不足に対応するための賃金引き上げを実施

岡山県倉敷市で事業を展開する(株)倉敷国際ホテルは、倉敷市の観光地である美観地区に隣接し、今年で創業60年を迎える。実業家 大原總一郎氏(現在の㈱クラレ第二代社長)が地域の要望に応えて建設に尽力し、竣工翌年の1964年には第2回日米民間人会議の開催会場となっている。ロビーには總一郎氏が懇意にしていた棟方志功の大板壁画が展示され、同郷の建築家である浦辺鎮太郎による和と洋の融合を意図した意匠が施された、欧米のウイークエンドハウスを思わせる佇まいのホテルである。
同社は、本業であるホテル事業のほか、料理旅館「鶴形」やレストラン「亀遊亭」などの事業も展開しており、2023年に行われたG7倉敷労働雇用大臣会合では、政府主催の昼食会の会場となった。
そのような格式ある同社も、新型コロナウイルス感染症による影響は大きかった。2020年以降現在に至るまで営業損失が生じるなど収益の悪化に苦しんできたが、現在は、日本人宿泊客が概ねコロナ前の水準に戻るなど回復の途上にある。そのような状況の下、今度は、人手不足、物価高騰やエネルギー価格の高騰などの社会情勢による影響が拡大しつつあった。
こうした状況を踏まえ、コロナ禍から完全に回復し、更なる発展を遂げることを見据えて、山口社長は、人手不足を改善するための賃金引き上げに着手することとした。

支援制度の活用による賃上げと業務効率化

経営状況が完全には回復していない中、賃金引き上げを行うにはどうしたらよいか、山口社長は苦慮していた。そんな中、岡山労働局からの案内で、賃金引き上げと生産性向上を支援する業務改善助成金という制度に目が留まった。どのような設備投資をすれば生産性が向上するのか、従業員にも意見を聞いた上で、同社は、この業務改善助成金を活用し、温蔵庫やセルフオーダーシステムを導入することとした。
料理の評価が高い同社では、調理担当の従業員が出張して給仕するサービスの需要が高い。温かい料理の提供は、やはりどこでも評判が良いのだろう。そのような中、更なるサービスの向上を目指し料理を一定の温度下で保温して運搬できる温蔵庫を導入。温かい料理を大容量で素早く運べるようになっただけでなく、衛生管理や品質の向上も図られた。また、同社が運営する病院内レストランは、多くの病院職員や医療従事者、病院来訪者が利用している。特に昼時は、オーダー取り、給仕、レジ打ち、後片付けなどの作業に追われている状況であった。しかし、セルフオーダーシステムを導入したことにより注文を効率的に受けられるようになり、接客・給仕を担当する従業員の負担が軽減されるなど、業務の効率化につながった。こうした取り組みもあり、パート従業員の時給を30円引き上げるとともに、若手を中心としたベースアップ、定年到達者の再雇用条件における賃金の引き上げ、年間休日数の増加などを実施した。特に若手従業員のベースアップの効果は高く、新卒の社員募集に応募があり、新たな若手社員を採用することができた。

コロナ禍からの回復と更なる発展を目指して

同社は、今後の目標として、コロナ前の経営状況に完全に戻し、黒字経営に回復させることを掲げている。そのため、団体客や海外からの宿泊客の戻り具合が重要になると山口社長は語る。今後、本格的な黒字回復を目指し、物価高騰やエネルギー価格の高騰に対応するための適切な価格転嫁も継続したいと考えている。
地域を代表する存在で、歴史と格式ある同社。応援していただいている地域の方々のためにも、以前の活気を取り戻したいと語る山口社長。そうした社長の熱い思いに従業員も精一杯答えている。

従業員の声

倉敷国際ホテル 藤原さん
ケータリングサービスの際、以前はどうしても冷たい料理を主としたメニューとせざるを得なかったが、温蔵庫の導入により、コース料理に温かいスープを加えたり、温かいメインディッシュを一度に運んで出せるようになるなど、お客様の要望に応える幅が広がり、サービスの質も向上した。衛生管理面も向上し、調理の手間や食品ロスが削減されたので、非常に役立っている。

レストラン楷の木 文谷さん
当初は、ご年輩のお客様にも使えるのかどうかなど不安があったが、セルフオーダーシステムを導入して、注文をとる手間がなくなり、オーダーミスも減ったため、業務が軽減され、人手不足がカバーされることにつながったと感じている。
レストランを愛好していただいている地元の方もおられ、そのようなお客様が大勢で入店される際にも、タブレットでオーダーしていただけると、注文を取るための手間を給仕に充てることができるため、他のお客様にもご迷惑を掛けずに済むことから非常に助かっている。