賃金引き上げに向けた取組事例
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CASE STUDY 30
賃上げ取り組み事例 -
有限会社正井工務店
建築工事、無垢一枚板の製造・販売
2024/1/24
小さな町の工務店が生産性向上と販路拡大を通じて賃金引き上げを図る
兵庫県西脇市で事業を営む小さな町の工務店。木造住宅のリフォームや一枚板の販売などを通じて、木のぬくもりをお客様に届ける。
- 企業データ
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- ●代表取締役:正井 圭司
- ●本社所在地:兵庫県西脇市
- ●従業員数:2人
- ●創業:平成6年8月
- ●資本金:300万円
- ●事業内容:建築工事、無垢一枚板の製造・販売
従業員の生活を考え賃金引き上げを実施
日本の住宅は木造が多数を占めている。2021年においては、新築の木造住宅が約6割を占めるなど、私たちの日常に深く関わっている。こうした木造住宅の新築工事やリフォームを主に手掛ける有限会社正井工務店は、従業員2名の非常に小さな会社である。小さな会社だからこそ、一緒に働く従業員を大切にしたいと代表を務める正井社長は明るく語る。
しかし、人材不足、資材価格高騰による利益の減少が会社の経営に影を落とす。そこに、新型コロナウイルスの感染拡大により対面業務の制限が加わった。住宅中心の新築工事やリフォームのみでは厳しいのではないか、何度もそう思ったと正井社長は語る。コロナ禍をきっかけに同社と提携していた多くの職人が仕事を辞めていった。また、2025年に開催予定の大阪万博もあり、建設業界そのものが人材不足に悩んでいる状況にある。そのため、住宅リフォームの注文などが来ても、人材不足により受注できない状況が続いた。こうした状況を打開するために、生産性の向上・販路の拡大を目指すとともに、物価高騰の影響を受ける従業員の生活を考え、一緒に働く従業員にこれからも働き続けてもらえるよう、賃金を引き上げることにした。
コロナ禍をきっかけに業務改善助成金を活用し新たな事業を展開
一言に生産性の向上と言っても、設備投資をすることで生産量を増やすのか、利益を生み出すために新たな付加価値を生み出すのか、など様々な方法がある。この点、正井社長は常に自らアンテナを立て、様々な方策を考えるとともに、活用できる支援制度を探した。そうした中で正井社長は、生産性の向上と賃金引き上げを支援する厚生労働省の業務改善助成金を探し当て、これを活用しつつ、新たな販路の開拓を目指した。
同社はこれまで、木造住宅の新築工事やリフォームを中心に事業を展開してきたが、コロナ禍以降、これのみによって生み出す利益に限界が生じた。同じことをやっていては価値は生まれない。正井工務店の強みは何か。これまで培ってきた木材の目利きの技術だ。良質な木材を選定し、これを自社で加工。無垢一枚板でできた高級テーブル等の製造・販売をすることとした。着手に当たっては業務量のほとんどを占める住宅の新築・リフォームの作業を効率化する必要がある。
まず、プレゼン等で利用しやすいPCを導入した。これまでは、お客様への施工内容の提案の際に、図面などを紙に印刷し説明していたが、これを電子化したことにより、印刷にかかる時間を大幅に短縮することができた。このPCの導入に、業務改善助成金を活用した。
また、丸太を製材する際に使用するツインレール製材機、製材を効率化させるツインブレードエッジャーを新たに導入した。これまで主に手作業で行ってきた住宅新築・リフォームで使用する製材作業が大幅に短縮した。
こうしてできた作業時間を原資に無垢一枚板の製造に本格的に着手。多くの製品が製造できるようになり、今ではオンライン販売も実施しているという。
さらなる効率化と賃金引き上げに向けて
こうした新たな設備投資による業務の効率化や新たな販路の開拓により、従業員の時給を90円引き上げることができた。また、現在も新たな設備投資を計画するなど、正井社長は常に今後のことを見据えて行動している。
今回、時給が上がったことに対し、事務を担当する従業員の石塚さんは、給料が上がり非常に嬉しく、仕事に対するモチベーションが上がったと語る。こうした従業員の声を受け正井社長は、現在も物価が上がり続けているので、従業員のことを考え、今後も賃上げを続けていきたい。そのためにも、業務の効率化やさらなる品質の向上、適正な価格転嫁を実施したい、と朗らかに語る。その目に映るのはお客様と従業員が喜ぶ姿である。