賃金引き上げに向けた取組事例
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CASE STUDY 33
賃上げ取り組み事例 -
株式会社アートブレッド
パンの製造・販売
2024/2/13
思い切った賃上げで、従業員に働き続けられる安心感を
2022年10月にはアルバイトの給与を10%、2023年4月には正社員の給与を7%と大幅にアップ。さらに、助成金・補助金を活用して業務効率を向上、更なる売上・利益率アップを目指す。
- 企業データ
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- ●代表取締役:富山敬彦
- ●本社所在地:愛知県名古屋市
- ●従業員数:144名
- ●設立:2010年
- ●資本金:800万円
- ●事業内容:パンの製造・販売
アルバイト、社員とも大幅な賃上げを実施
愛知県名古屋市で5店舗の「ベーカリーピカソ」を運営する『株式会社アートブレッド』。店舗には130種類ものパンが並ぶ。毎月5~8個の新商品が登場し、お客の来店促進につながっている。ここでの人気商品は、カレーパングランプリ7年連続金賞受賞の『牛肉ゴロゴロカレーパン』。多いときには1日約3,000個が売り切れるという。
同社は2022年10月、アルバイトの時給を10%引き上げ、2023年4月には正社員の給与を平均約10%(最大31.4%)引き上げた。同社としては過去最高の引き上げ額だが、会社の原動力となる従業員が長期的な物価上昇などの社会環境の変化に対して、経済的に少しでも安心して仕事に邁進できるようにするため、思い切って実施した。今回の賃上げ後「従業員の間に安心して働ける職場だという認識が高まり、働くモチベーションも上がったことを実感した」と語る広報担当の谷口さん。
思い切った賃上げを実現した方法と今後の展望
このような大幅な賃上げは、ヒット商品が生まれるだけではなしえない。思い切った賃上げにつなげるため、同社はどのような対策を講じたのか。また、今後の継続的な賃上げに向け、どのような対策を講じているのか。同社の取組に迫ってみよう。
価格転嫁の決断
パンの主原材料である小麦の価格は緊迫した国際情勢や円安の影響を受けて高止まりの状況が続いていた。また、光熱費の価格高騰も同社の経営に大きな打撃となっていた。このような状況を踏まえ、同社は2022年4月に、全商品の価格の10%値上げに踏み切った。富山社長は、地域の人々が日常的に口にするパンは、日々の暮らしに寄り添った価格で販売すべきだと考える。一方で、原材料費や光熱費の高騰分をストレートに価格に載せた場合、約20%の値上げが必要だった。10%の値上げは、悩み抜いた上での決断であった。
10%の値上げ後、客数は昨年と比べて5%減ったが、売上げは10%増となった。これからは子供が喜ぶパンなど、低価格で提供できる商品の開発に力を入れるという。
販路の拡大に向けた新たな取組
同社は、オンラインでの販売網に力を入れるために2023年2月にECサイトを開設した。開設直後は『牛肉ゴロゴロカレーパン』のみの販売だったが、2023年12月には、営業時間内に店頭販売できなかったパンをクール便で届ける『もったいないパンセット』の販売も開始。今まで店舗でしか買うことのできなかった名古屋の味がオンラインで購入できるとあって、全国から注文がくるようになり、売上げは少しずつ伸びている。同社ではECサイトをひとつの店舗として捉え、将来的には実店舗に劣らない売上げを目指している。
業務改善助成金を活用した生産性向上の取組
現在、同社は、新たな設備投資として、自動食パンスライサー、真空包装機、卓上型ミキサーの導入に向けて厚生労働省の業務改善助成金を申請している。業務改善助成金は、労働者の賃金を引き上げるとともに、生産性向上に資する設備投資を行った場合に、その設備投資にかかった費用を助成するものだ。また、新業態のケーキ&カフェを立ち上げるために大型のブラストチラーの導入を予定している。これは、商品を急速冷却するための機器で、水分・香り・鮮度などを閉じ込め、食材の風味を逃さず仕上げられる。ブラストチラーの導入によって業務の効率化、省力化、廃棄ロスの削減とともに利益率の向上が図られることから、従業員への還元が期待できる。
YouTubeを活用したブランディングの向上
また、同社は、名古屋市の中小企業事業展開支援補助金を活用してパソコンを導入し、YouTubeチャンネルの開設を準備中だ。開設後は、同社のパン作り、仕事に対する取り組み方を発信し、顧客満足度向上や人材採用に繋げるという。
今後の展開として同社が重視するのはブランディングの追求。それには広報の力が不可欠。「少し高価でもピカソのパンなら食べたいと思えるようなブランドに育てたい」と富山社長。パンは日常の暮らしに根付いているだけに、高い信用・信頼が伴わなければならない。同社の取組を積極的に発信することにより、価格競争に陥ることなく、高品質で安全なパンを届けたいと語る。
賃上げとレインボー採用で人材確保を
賃上げ後、同社では、正社員を4名、アルバイトを49名採用することができ、思い切った賃上げは人材確保にも大きなインパクトを与えた。加えて、同社の人材採用における工夫のひとつである「レインボー採用」も新規採用で一定の効果をあげている。これは、髪の毛の色などの見た目や年齢、性別などで判断せず、自分らしさを表現できる職場を目指そうというもの。レインボー採用は名古屋学院大学商学部のゼミで講座(ダイバーシティマネジメントの取り組みについて)が開かれ、話題となった。「人材確保は今後ますます難しくなる。賃上げだけでなく、会社の姿勢をしっかり打ち出してアピールしていることも新規採用に繋がっているのではないか」と富山社長は語る。
従業員の声
谷口太郎さん(広報担当/MD戦略・ブランディング)
賃上げの効果は従業員の働く意欲を確実に高めています。また、毎月5~8個の新商品の提供は来店するお客様にワクワク感を感じていただき、パンを作る従業員の働きがいにもなっています。広報担当としては、賃上げだけでなく、レインボー採用もアピールして人材採用に繋げたいと思っています。