賃金引き上げに向けた取組事例

CASE STUDY 35
賃上げ取り組み事例

有限会社ロゼクリーナースカキヌマ

クリーニング業

2024/3/29

業務改善助成金がもたらした新規事業の安定化と従業員のモチベーションアップ

業務改善助成金により賃上げと職場環境の改善を実現。コロナ禍を背景としたクリーニング需要減に対応すべく立ち上げた新規事業と業務改善助成金の関係とは。

company 企業データ
  • ●代表取締役社長:柿沼 克彦
  • ●本社所在地:群馬県安中市
  • ●従業員数:17名
  • ●設立:1989年
  • ●資本金:550万円
  • ●事業内容:クリーニング業
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「新しい生活様式」で迫られた新規事業の開拓

2020年に起こった新型コロナウイルス感染症により、我々は生活様式を大きく変えることを求められた。「新しい生活様式」により、友人・知人と会う機会が減り、地域の行事も減るなど、人の集まる活動が縮小した。この影響は飲食・宿泊サービス業にとどまらず、クリーニング業でも受けていたのだ。二代目にあたる柿沼克彦社長はこう語る。
「冠婚葬祭が簡素化され、単価が高かった礼服のクリーニングが減りました。祭事や学校関係の行事も縮小されています。お祭りなら法被など、数千枚単位のクリーニング需要があったのですが、それが全くなくなってしまいました」。
2020年度の売上は前年の7割にまで落ち込んだ。コロナ禍が収まり業績は徐々に回復している。しかし、業界の現状は洗濯機や家庭用洗剤の機能高度化、家庭で洗えるノーアイロンワイシャツなど衣類・素材の高機能化などを背景に需要が減少している。将来のことを考えると、現在の営業形態(店舗)だけで業務を継続するのは先細りであり、新しい仕事を創り出さなければと考えを巡らせていた。
そうした中、新規事業として病院・老人ホーム・介護施設の入居者向けの集配クリーニングサービスを開始した。また、企業のユニフォームや作業着の洗濯請負も積極的に推し進めた。
しかし、新規事業を軌道に乗せるには人材確保が必要。特に賃金面は働く魅力の一つであり、これを上げなければ人は集まらない。また、効率的な作業が行われているかなどの職場環境も重要な要素の一つだ。そこで同社は、業務改善助成金を申請し、賃上げと業務効率化による職場環境改善の両者を行った。賃上げについては2022年10月に全従業員の時給を一律30円賃上げし895円に、翌年の2023年にはさらに90円上げて985円に設定した。
「賃上げはコロナ禍で仕事がなく苦しい時期を耐えて一緒に乗り越えた従業員に対しての感謝の気持ちもありました。3人の従業員からは賃上げに対して、直接感謝の電話をもらいました」と柿沼社長は語った。

最新クリーニング機器の導入により期待した効果

職場環境の改善の面では、業務改善助成金を利用して、万能プレス機、軽量化チタンアイロン、回転型立体ボディ仕上げ機などのクリーニング機器を導入。これにより、それまで熟練を要した作業の経験が浅くても高品質を維持できるようになった。
万能プレス機では手作業で行っていた作業が機械化でき、従業員の体力消耗度が減少、安全装置が備わっているため事故やケガのリスクも低減した。軽量化チタンアイロンは、従来の鋼鉄製品が重さ3~5㎏なのに対し、重さ1~1.5㎏。女性でも扱いやすく、作業効率が高まった。回転型立体ボディ仕上げ機も従業員の負担軽減に貢献している。仕上げでは蒸気を使用するため、作業中に50℃度近い環境になっていたが、この仕上げ機ではすべて自動で行え、過酷な条件にさらされることもなく、また短時間で仕上げることができる。
「効率化もそうですが、何より、従業員の肉体的な負担が軽くなったのが大きいですね。人材確保にとっても職場環境の改善は必要だと思いました。職場環境の良し悪しは応募と入社を決める目安になるはずです」

最新の機器がもたらした従業員のモチベーションアップ

賃上げとクリーニング機器の新規導入は、これまでの作業を効率化すると同時に従業員の仕事に対するモチベーションアップにもつながった。導入後は従業員同士が自発的に技術を教え合い、仕事を効率よくこなす技術を身につけるようになっている。
設備投資、賃上げの原資確保には業務改善助成金の活用のほか、クリーニング料金の値上げも行った。値上げによる客離れも心配だったが、それは杞憂だった。
「節約志向もあり、お客さんはできればクリーニングには出したくないと思っていらっしゃいます。一方で、大切な衣類はクリーニングに出したいという潜在的な需要はあるはずです。ですから、品質を保てば客離れは防げると感じています。」
今後は、新たに立ち上げた新規事業の拡大を目指している。現在、新たな新設工場も建設中だ。
「始まってみなければなんとも言えませんが、業績が上向けば人も増やしたいし、賃上げも継続していきたい。さまざまな助成金や補助金の活用も視野に入れています」。
業界自体が厳しいという現況にあっても、柿沼社長は決して現状維持のみを考えているのではない。事業の拡大に積極的に取り組んでいる。
「従業員の幸せのためにも事業を継続、発展していきたいと思っています」と明るく語ってくれた。