賃金引き上げに向けた取組事例

CASE STUDY 37
賃上げ取り組み事例

大衆酒蔵 縁(ゆかり)

居酒屋事業

2024/3/29

人手不足と物価高のなかの値下げ圧力という厳しい状況下でも
人との「縁」を大事にして発展を続ける

前身の「養老乃瀧」から数えれば、創業ははるか昔。
家賃の高い都心ビジネス街の一角で踏ん張りつづける

company 企業データ
  • ●店長:平田 豊
  • ●本社所在地:東京都千代田区
  • ●従業員数:2名
  • ●設立:2015年
  • ●事業内容:居酒屋事業
company

賃上げと作業効率の大幅な改善で継続的な雇用を確保

長期にわたるコロナ禍にも、ようやく終息のきざしが見えた2023年。家庭生活や社会活動が復調し、人の往来が活発になり、飲食業界も徐々に活気を取り戻しつつあったが、次に襲いかかってきたのは、物価高に加え、人手不足という強烈な大波だった。
同店は、ビジネス街の一角にかまえる町の居酒屋だ。現在、店長の平田さん自身のほか、正社員1名、アルバイト1名の陣容で、昼のランチタイムは2名、夜は3名の体制を敷いて日々の営業を切り盛りしているが、同店を運営する上でギリギリの人員だという。そのため、継続的な雇用の確保は、至上命題。そこで、同年9月には、パート・アルバイトの時給を1,150円から1,200円に引き上げ、12月には、正社員1名の基本給を236,000円から、252,000円に引き上げた。
厳しい経営状況の中、大幅な賃上げを実現した背景には、賃上げと同時に生産性向上を図ることができる業務改善助成金があった。 同店は、業務改善助成金を活用し、それまでシンクで食器や調理道具を手洗いしていたが、食器洗浄機を導入して洗浄作業にかかる時間を大幅に短縮した。また、冷蔵庫も、トップに調理台のあるものに替え、作業スペースを大きく確保することによって厨房での動きをよりスムーズにして、スタッフが働きやすくした。日々の作業を見直し、効果的な設備投資を実施することでによって業務効率を高めた結果、就業時間の短縮も実現できた。
こういった、賃上げや、その前提となる生産性の向上をめざした設備投資のための助成金の申請の手続きなどに力を発揮してくれたのが、日頃からお世話になっている税理士や社労士、中小企業診断士の人たちだった。

縁(えん)に助けられた結果の価格転嫁や業績アップ

かねがね、人との縁(えん)を何より大事にし、多くの人に助けられてきた平田店長であったからこそ、従業員はもちろん、仕入先、顧客など、さまざまな人たちからのアドバイスや具体的な提案は、できるだけ素直に受け入れるようにしてきた。
たとえば、急激な物価高のあおりを受けて仕入価格もどんどん上昇するなか、「安さで勝負」のチェーン店が競争相手となる居酒屋業界において、どのように生き残りを図ればいいのかを考えあぐねていた時、若いスタッフから「無理して大変な思いを続けているより、値上げをすればいいのでは?」との意見が出された。来客数への悪影響が生じる懸念はあったが、思い切って価格に転嫁してみたところ、常連さんたちは、値上げしたことなど気にもかけず、客層が変わり雰囲気がよくなったからと、かえって足しげく通ってくれるようになった。
また、近くにオフィスを構える洋酒輸入業者からは、高級ウイスキーやブランデーの仕入れを持ちかけられた。自分の店でこんなに高価なものが受け入れられるのだろうかとの心配をよそに、大きく売上げを伸ばし、今や看板メニューにまでなっている。
まさに、人との「縁(えん)」によって形作られた店なのだ。

賃上げが増幅した従業員の店への愛情

千代田区神田という、とびきり家賃の高い地域にもかかわらず、両親から引き継いだこの店に愛着と誇りを持ち続けてきた平田店長。地域と、自らのお店への愛情は、賃上げという形になって従業員にもしっかり伝えられ、従業員もしっかりと応えている。同店に関するSNSの書き込みに「店員さんの気遣いが素敵。店内もすごくきれい。」というものを見つけた。平田店長と同様に、従業員にも店に対する愛情が芽生えているのだろう。賃上げによって、従業員のモチベーションも、しっかり上げることができたようだ。
現状に満足することなく、さらなる賃上げを目指す平田店長が、いま最も力を入れているのが「焼肉テーブルコーナー」だ。これも、出入りの食肉業者からの提案がきっかけだった。居酒屋と焼き肉店の融合により、新たな客層の開拓、客単価の向上に期待を寄せる。
いつでも人との「縁(えん)」を大事にしてきた平田店長。この店が文字どおり、誰にとっても「縁(ゆかり)」の場となり、たくさんの良縁をいただき、与える店でありつづけられるよう、従業員とともに更なる知恵と愛情を注いでいく。