賃金引き上げに向けた取組事例
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CASE STUDY 39
賃上げ取り組み事例 -
とんかつ たていし
飲食業(とんかつ店)
2024/3/29
愛され続ける店を目指して実施する「従業員への待遇改善」
島根県松江市屈指の老舗とんかつ店「とんかつ たていし」。業務改善助成金の申請から始まった従業員の待遇改善。地元に愛され続ける店を目指し、更なる課題解決に取り組む。
- 企業データ
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- ●代表取締役:立石 英司
- ●本社所在地:島根県松江市
- ●従業員数:12名(正社員1名 アルバイト11名)
- ●設立:1988年(創業時は「とんかつ ふなつ」)
- ●事業内容:飲食業(とんかつ店)
きっかけは税理士、労務関係の悩みを助けてくれた機関とは
島根県松江市の「とんかつ たていし」は、1988年「とんかつ ふなつ」として創業し、後の2007年、現在の店主、立石英司さんが引き継ぐかたちで「とんかつ たていし」としてリニューアル。今や、松江でとんかつを食べるならココと言われるほど、地元の人々に愛されている老舗とんかつ店である。人気を支えているのは高級ブランドポーク「大山ルビー」。お米は立石さんの出身地である奥出雲町の仁多米を使用。また、とんかつを揚げる油も胃もたれのしない、品質の良いモノを使っているこたわりぶりなのだが、特に油がここ数年で1缶2,500円から倍の5,000円に上がっている。「材料の高騰だけでなく、実はコロナ禍、経営が厳しくなり、『新型コロナウィルス感染症特別貸付』で借入れをしました。その返済を滞らせないため、1つのメニューに対して10%ずつ、時々価格をアップさせているのですが、県の最低賃金も大幅に引き上がり、価格改定だけでは間に合わなくて」と立石さん。そうした厳しい経営状況を税理士に相談したところ、島根労働局の紹介があったという。「そこで業務改善助成金があることを教えていただきました。担当者が親切で申請書類の書き方などを丁寧に教えていただきました」。
最大のネックであった飲食店の“あのエリア”
立石さんは売上げを伸ばす策として、以前から座敷席をテーブル席にして回転率を上げたいと考えていた。そうするとおのずと食器を洗う速度も高める必要があり、食器洗浄機も導入したい。そういった改修工事に業務改善助成金を活用できるのか労働局の担当者に聞いたところ、そういった助成の例があるとのことだった。「店の奥にある座敷席にお客様をご案内する際、お客様には土間で靴を脱いでいただくことになります。この脱ぎっぱなしの靴が、実は配膳の妨げになっておりまして、気になっていたんです。そこで、座敷席をテーブル席に改装し、お客様を靴のままご案内できるようにしました。こうして、料理提供のスピードが向上しました。また、今まで食器は手洗いだったのですが、自動食器洗浄機を導入することで大量の食器を高速で洗浄することが可能になりました」。お陰で一気に業務の効率化を図ることができたという。
また、助成金を受けることで学生バイト10名の時給を一律30円アップできたという。この際、労働局の担当者から最低賃金が引き上がると聞いていたことも、この時給アップの背景にはあるようだ。
従業員の待遇改善に向け、一歩ずつ前へ
時給が上がったことに対する学生アルバイトの反応を伺ってみた。「よくシフトを入れて勤務してくれる学生はモチベーションが上がり、それまで以上に頑張って働いてくれています」と立石さん。客数は「昼だけで50名近くのお客様が訪れることもある」が平均すると1日約60名。昼と夜に働くパート従業員一人と、学生アルバイト10名のうち3~4名がシフトに入る。接客と調理補助で各2名に分かれ、店内を切りもりしている。
当面の課題は従業員の定着と後継者育成だ。「アルバイトはみんな学生なのでだいたい1年、長い子だと2~3年。仕事を覚えてもらい、慣れてきた頃に辞めていくのでその補充を常に考えていなければいけません」。そのため、学生アルバイトではなく、パート従業員をもう一人雇う予定。「パート従業員の時給はもともと880円だったのですが、今は1,000円にしています。長く働いてもらっているパート従業員は最近、キャリアアップ助成金を申請し、正社員に転換してもらおうと思っているところです」。
おいしいとんかつを食べてもらいたい。こうした思いを胸に、立石さんは従業員の待遇善にも目を向け、地元に愛され続けるとんかつ店を目指す。