賃金引き上げに向けた取組事例

CASE STUDY 41
賃上げ取り組み事例

鹿児島くみあいチキンフーズ株式会社

ブロイラー種卵の生産・ふ化、ブロイラーの飼育、ブロイラーの製造・加工・出荷、ブロイラー農場集中作業の補完業務、鶏糞の堆肥化

2024/3/29

目指すは、国産ブロイラー事業のトップブランド
レイバーコストは抑えず、ベースアップを図る

物価上昇に伴い、5年ぶりにベースアップを実施。
業務効率化や生産性の向上努力に加え、価格転嫁も有効な手段に。

company 企業データ
  • ●代表取締役:城元 清巳
  • ●本社所在地:鹿児島県鹿児島市
  • ●従業員数:779名(2023年12月31日現在)
  • ●設立:1990年(母体となる株式会社くみあい食鳥センターは1974年設立)
  • ●資本金:9,000万円
  • ●事業内容:ブロイラー種卵の生産・ふ化、ブロイラーの飼育、ブロイラーの製造・加工・出荷、ブロイラー農場集中作業の補完業務、鶏糞の堆肥化
company

5年ぶりのベースアップで給与を底上げ

鶏肉や鶏肉の加工品は、日本人の食生活に欠かせない食材だ。鶏肉は、食肉の中でも比較的安価とされるが、戦前までは牛肉よりも高級品だったことは、あまり知られていない。手ごろな価格で手に入るようになったのは、戦後以降、食肉専用のブロイラー事業が始まったことによる。同社は、国産の食鳥にこだわり、生産・加工・販売の各段階を一貫で管理する畜産インテグレーション(垂直統合)を実践。JA系列の全農チキンフーズグループの一翼として、種鶏(しゅけい)の育成から種卵(しゅらん)の生産と飼養、加工までの主に製造部門を担う。
同社は2023年4月、5年ぶりに正社員は5,000円(約2.5%)のベースアップを実施した(日給扱いの準社員は50円/時間(約5.0%)アップ)。5年前のベースアップは、諸手当を基本給に織り込むことで対応したものであったが、今回は実質的な賃金の底上げとなった。「賃上げの一番の狙いは、物価上昇をカバーし、当社の実績を還元することで、従業員のモチベーションを向上させて、仕事に邁進してもらうこと」と話すのは、総務部兼品質管理室長の志鹿明信さんだ。「基本給は、単年度のみで考えるのではなく、将来の引き上げを見据えた上で基準となる金額を設定しなければならないため、引き上げ幅の判断は難しい」としながらも、競業他社や他のJA系列の畜産関連会社の賃上げの実施状況を踏まえ、同社の実績や賃上げの原資の確保状況を精査して、試算。役員ら上層部とすり合わせながら「今、当社ができる範囲」(志鹿さん)として、ベースアップ額を設定した。

給与の原資確保に、価格転嫁が有効

5年間賃上げに至らなかった背景には、同社の業態も関係している。同社は、種鶏→ふ化→飼養(生産)→処理加工を担う製造部門である。製品化した鶏肉は全量、親会社にあたる全農チキンフーズ株式会社に一定価格で出荷。そして親会社が、スーパーマーケットや卸売業者といった取引先へ販売している。「物価上昇などの影響で、生産性の向上や業務効率化といった当社の努力だけでは、人件費や賃金引上げ分の原資の確保が難しい状況に陥っていました」と話すのは、総務課長の柿原洋一さんだ。同社の場合、飼料や水光熱費といったコストの上昇分を価格に転嫁するための交渉先は、販売部門の親会社であり、さらに親会社が取引先と協議を行う。「市場の動向や相場の変動もあるため、こちらの都合ばかりを優先できない事情がある」と志鹿さん。また、一般的に「鶏肉は値ごろ」という感覚が消費者にあるため、相場を大きく逸脱するような値上げは消費者や取引先から反発が生まれ、原資となり得るほどの価格転嫁は困難だと感じていたという。しかし「当社は人がいなければ成り立たない事業。機械化が進んでも、人材の確保をしていかなければ、将来的に事業そのものが先細りになってしまう」と柿原さん。そんな危機感から親会社に対し、特に人件費への転嫁の必要性について丁寧に説明を重ねていった。さらに物価高が続き、水光熱費や必要不可欠な飼料などが高止まりするといった社会情勢の中で「親会社や取引先の間で、人件費などのコストを抑えるよりも、製品への価格転嫁が将来的にも有効であるという雰囲気が醸成されていった」と話す。同社の実績が高水準で推移していたタイミングと重なり、給与の財源が確保できたことが、5年ぶりのベースアップにつながった。

個体差を減らし、歩留まりのアップで生産性が向上

同社はこれまでも、原資の確保にもつながる業務効率化に取り組み、生産性を向上させてきた。種鶏農場→ふ化場→飼養農場と製造工程の各段階において、換気や湿度管理、鶏の出荷後、次のひよこが入荷するまでに空いた鶏舎を水洗等で掃除し、清潔を保つ空舎作業を徹底し、契約農家には「指導員」と呼ばれる社員を派遣して、最新の飼養管理を指導。発育途中にリタイアするひよこの数を減らして、エサに無駄が出ないように防疫対策と管理を実施してきた。志鹿さんは「これらの取り組みを積み重ね、いかに効率よく、短い日数で工場に出荷するかは、生産性を左右する歩留(ぶど)まりにも関わってくる」と説明する。
歩留まりとは、生鳥から可食部の肉がどれぐらい生産できるかの割合を指す。同社では、毎日およそ11~12万羽の鶏が直営農場や契約農家から処理加工工場へ出荷されるが、個体にバラつきがあると歩留まりが下がるという。なぜなら「工場の機械は鶏を部位に解体する際、個体差を一つひとつ認識できず、また個体が大きすぎても機械に合わない。調整の手間や無駄をなくすため、その前段階で鶏をほぼ同じ大きさに育てることが必要になる」(志鹿さん)からだ。そのため、前述した製造工程の各段階における取り組みを通して、できるだけ個体差を減らすことで、例えば前年度と出荷する鶏の羽数は同じでも、鶏肉の量は増えるという構造が生まれ、歩留まりがアップ。結果、生産性の向上につながり、現在の実績は右肩上がりで推移しているという。
一方で「工場はほぼフルオートメーションに近い形で操業していますが、成形や検品といった、まだまだ人の手が必要な作業があります」と柿原さん。また、農場での飼養なども機械化しにくい部分だ。そのため、継続的な人材確保は現在の業態を維持・発展させていく上で必要不可欠であることから、2023年度のベースアップにあわせて、「応募者が企業を選ぶ際、給与面で当社を見送ることがないように」(柿原さん)と、募集賃金も引き上げた。
2024年には、前身である株式会社くみあい食鳥センターの創業からあわせ、創業50周年を迎える中、同社を含むチキンフーズグループは、2030年度に国産ブロイラー事業のトップブランドとなることを目標に掲げる。そのためにも、より一層の生産性向上と人材の充実を目指し、親会社と連携を強化し、さまざまな施策を実施していく。