賃金引き上げに向けた取組事例
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CASE STUDY 48
賃上げ取り組み事例 -
TOWA株式会社
半導体製造用精密金型、半導体製造装置、ファインプラスチック成形品およびレーザー加工装置の製造販売ならびに製品のアフターサービス等
2024/3/29
売り上げ1,000億円を目標に持続的賃上げに取り組む
身近な電気製品や通信機器、自動車や航空機、AIなどに不可欠な半導体の製造機器や超精密金型を製造。半導体を封止するモールディング装置は世界シェア№1の66%。
- 企業データ
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- ●代表取締役:岡田 博和
- ●本社所在地:京都府京都市
- ●従業員数:597名(2023年3月31日現在)
- ●設立:1979年
- ●資本金:89億5,567万1,632円
- ●事業内容:半導体製造用精密金型、半導体製造装置、ファインプラスチック成形品およびレーザー加工装置の製造販売ならびに製品のアフターサービス等
平均7.23%の大幅な賃上げを実施
TOWA株式会社は、半導体事業をはじめ、新事業、化成品事業、レーザー事業と4つの事業を展開する。中でも同社の中心をなす半導体事業において、樹脂によって半導体チップを保護するモールディング装置の製造では世界シェアの約66%を占めるリーディングカンパニーだ。半導体は、身近なほとんどの電気製品や工業製品に使われているのはもちろん、近年注目を浴びているAIやEVの飛躍的な進歩にも大きな役割を果たしている。同社の業績は、世界的な需要に応じて急速に拡大している。
同社は、好調な業績を背景に毎年賃上げを実施しており、特に2023年には非管理職の従業員に対して平均7.23%(定期昇給含。ベースアップ分は平均14,200円)という大幅な賃上げを実施した。
総務部人事課の金井課長代理は「物価の高騰や社会経済情勢もあるが、大きな要因は社員に気持ちよく働いてもらうこと、働いていてよかったと思える会社の姿勢を示したかった」と語る。半導体業界は国内外における経済の好不調の波による影響を受けやすいが、それを踏まえながら2023年度の経営計画を立て、同社にあって過去最大の賃上げに踏み切ったのだという。
賃上げは企業をより強くするための投資
このような大幅な賃上げを実施するために必要な原資を確保するために、何か特別な対策を実施しているのだろうか。しかし、金井課長代理は「賃上げ分は業績を鑑みた予算計画に組み込まれているので賃上げのために何かに注力したということはない。弊社では賃上げをあくまでも投資と考えている」と語る。
京都には精密機器メーカーや半導体関連企業が多く、同業の各社は激しい人材確保競争にさらされている。後述の「TOWAビジョン2032」で2032年3月期に売上高1,000億円を目標としている同社にとって、人材確保競争に打ち勝ち、人材の数の面でも能力の面でも優位に立つことが、目標達成の鍵になるという。そして、現在の賃金水準から更に持続的に賃上げを実施することは、競合企業との人材確保競争において優位に立つ上で必要不可欠と考える。賃上げは、同社がより強い企業に成長していくための投資なのだ。
大幅な賃上げに対する従業員の反応は非常に好意的で、モチベーションが上がったという声も多く届いているという。
売上高1,000億円を目指して持続的な賃上げを
同社の中長期的経営計画である「TOWAビジョン2032」は、「変革で世界の頂へ」をテーマとする。具体的には、策定された2022年から10年後の2032年までに売上高1,000億円、営業利益率25%を目指すというものだ。これにより、世界の半導体業界におけるリーディングカンパニーとなること、さらに同社の技術を持続可能な社会の実現に役立てることも目標としている。
よくいわれる4大経営資源とは「ヒト・モノ・カネ・情報資源」だが、同社はこの長期ビジョンの達成に当たって「ヒト」を何よりも重視している。「採用した人材をどのように育成し、活躍してもらうか。そして、成長した人材をもって業績を向上させるとともに、社会へどう貢献していくか。これからの10年の大きな課題だ。」と金井課長代理。人がいなければモノは作れない。持続的な賃上げは、同社が世界の頂を目指すための人材を育て支えるためには欠かせない。
同社が重要視する人材に対する思いは、新たに導入した再雇用制度にも現れている。それについて尋ねてみた。
定年後も正社員と同水準の処遇を実現した再雇用制度
2022年3月、同社は60歳の定年後の新たな再雇用制度を創設した。それまでにも再雇用制度はあったが、給与が減少し再雇用者の意欲維持が難しかった。そこで、定年後も引き続いて働きがいを持てるようにと新制度が導入された。新制度では、基本給、各種手当、賞与の処遇は正社員と同水準であり、昇降給・昇降格も実施する。基本給は上長の評価に基づいて半年ごとに見直される。
総務部の澤田さんは「新制度は、社員にとっては定年後も経済的に自立した生活を維持しやすくなり、より長く仕事で活躍することで自己実現や成長できる機会が増加するはず。弊社にとっては、ベテラン社員の持つ高度な技術やノウハウ、これまで弊社が培ってきた企業文化を若手社員に伝承することができ、企業全体の成長にも繋がることが期待されている」とメリットを語る。
新制度実施後の2024年1月現在、27名が定年退職後も再雇用者として勤務している。売り上げ1,000億円企業を目指す同社にとって、労働力の確保は重要なテーマだ。「高いノウハウや意欲を持った社員が活躍するためには、今回導入した新たな再雇用制度の意義はとても大きい」と澤田さんは語った。