賃金引き上げに向けた取組事例
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CASE STUDY 55
賃上げ取り組み事例 -
有限会社菓子工房ルマン
(パティスリー・ケンジ)洋菓子の製造・販売
2025/3/14
業務改善助成金の活用により生産性向上
従業員のモチベーション向上、新商品も誕生
- 企業データ
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- ●代表取締役社長:藤井謙治
- ●本社所在地: 山口県宇部市
- ●従業員数:6名
- ●設立:1998年
- ●資本金:300万円
- ●事業内容: 洋菓子の製造・販売

原材料費の高騰などで生じた課題
同社の本社所在地は、宇部市にあり、店舗と工房を併設して、洋菓子の製造・販売を行っている。代表の藤井社長によると大切にしているのは、菓子づくりを通して温かな笑顔を創り出すこと、そして、宇部の銘菓を創りたいという先々代からの想いだという。
それは、同社の経営理念「A distinguished taste concentrated from effort and time」にも表れている。

同社は創業後、経営努力の甲斐もあって20年以上順調な経営が続いており、バブル崩壊後の不況も乗り切ることができた。また、新型コロナウィルス感染症が拡大した2020年以降は、巣ごもり需要の拡大で「自宅で食べるスイーツ」需要が高まったこと、政府による補助金の支援を活用することで洋菓子事業を継続させることができた。
ところが、ロシアのウクライナ侵攻後、小麦やバターをはじめ洋菓子作りに必要な原材料費や光熱費の値上りに加え、同社の商品に特に必要なチョコレートがカカオ豆の不作に加えて円安の影響も加わり、1年間でチョコレートの価格が3倍に上昇したこと。また、そのほかに、人件費高騰や人手不足が深刻化したことも当社の課題となった。
業務改善助成金活用により作業省力化・賃上げを実現
洋菓子は、その配分や作り手の技術によって仕上がりに大きな差が出てしまうため、高度な技術と手間を要する。特に、限られた人員で作業を行っている中にあっては、①手間を惜しまない作業を除いて機械化すること、②作業の省力化を進め人件費の増加の原因となっている労働時間を削減すること、に対応する必要があった。
特に、同社ではクッキーの生地を計る作業に多大な時間を要していた。バターサンドを作るにあたり、これまでは菓子生地9㎏の固まりから目分量で分割し、計量器で10gを計測し平均900個のバターサンドを焼成する作業をしていた。10gを均一に計測することはとても困難な作業で、生地を付け加えたり削ったりすることを2人から3人で4時間近くかけて行っていたため、大きな負担になっていた。同社の藤井社長によると、原材料費等の高騰が続く中、一生懸命に働く従業員に報いたい、また、作業を省力化し従業員の負担も減らしたいという想いが強くあった。その一方で、以前から生地を分割化する機械を欲しいと思っていたものの、作業効率を高める効果がある新型の機械を購入するには多額の資金を要するため購入を躊躇していた。
そうした中で、取引先の担当者から賃金引き上げと生産性向上に役立つ業務改善助成金を教えてもらい、定量分割機という機器を導入し手作業で生地を分ける工程を機械化することになった。この結果、これまで4時間近く要していた作業時間が30分まで短縮されることになり、作業の省力化(労働時間の削減)の実現と同機器を活用した新製品も発売することもできた。

(新たに導入した定量分割器)

(業務改善助成金の活用により生まれた新商品(焼菓子)「ほろほろ」)
また、パート従業員の時給についても、令和5年に50円、令和6年には70円の引き上げを行った。
賃金引き上げによって、その対象となったパート従業員のモチベーションが上がるとともに、「自分たちが宇部の銘菓、ご当地スィーツを作っている」という想いが強くなったのではないか、従業員自身、洋菓子作りの楽しさも感じることができ、新製品誕生に繋がったと考えていると藤井社長。
心を込めたお菓子作りのためにも継続的な賃上げを
現在、少子高齢化による需要の縮小や食の嗜好変化によるニーズの多様化など洋菓子業界を取り巻く環境は非常に厳しい環境の中にある。藤井社長は、会社の経営理念に共感し、一生懸命、スイーツ作りに尽力してくれる「気持ちのある人、情熱のある人」には会社も賃金を引き上げて報いたい。お菓子によって幸せな時間を提供したい、心を込めたお菓子作りに協力してくる従業員には賃金引き上げを実施したいと考えている。また、以前のように日本全体に活気がないし、暗いニュースが続いていることに残念な思いである。それでも、楽しい話題を提供して地元のスイーツ業界を盛り上げていきたいし、当社のお菓子を手土産として使ってもらえたらうれしいとのことであった。

(藤井謙治代表取締役社長)

(主力商品・生焼チョコレートの「宇部ダイヤ)