賃金引き上げに向けた取組事例

CASE STUDY 60
賃上げ取り組み事例

株式会社商工給食

委託食堂、給食事業、弁当製造・販売

2025/3/31

人手不足に抗うため、継続的に賃金を引き上げ
生産性の向上や販売価格の引き上げのみならず、事業のシフトにも挑む。

company 企業データ
  • ●代表取締役社長:宮川 卓也
  • ●本社所在地: 福島県郡山市
  • ●従業員数:129名
  • ●設立:1963年
  • ●資本金:10,242千円
  • ●事業内容: 委託食堂、給食事業、弁当製造・販売

人手不足に抗うための賃上げ

人の暮らしに欠かせない「食」を提供する、株式会社 商工給食。同社は、社名のとおり学校給食事業を展開するだけではなく、社員食堂、仕出し弁当、病院、介護施設での食事などの調理、運送、さらには調理に関連する人材の派遣など、福島県を中心に「食」に関わる幅広い事業を展開している。
目下、この業界を大きく悩ませているのが人材不足だ。今までなら雇い入れることができたはずが、働き手が見つからない。この業界を含め、幅広い業界でこの問題は日に日に厳しさを増している。問題を克服し、経営に必要な多様な人材を確保するための宮川社長の考えは、賃金の引上げが不可欠だというもの。ある程度の賃金額を確保することによって多様な人の応募を呼び込むことが、人材難を打開するために必要ということだ。
この考えから、同社で働く従業員の賃金を1000円以上に設定している。この結果、子育て中の方など、長時間働くことはできないもののある程度の収入を得たいと考えている方の応募を呼び込むことができるようになった。「賃金を引き上げる前より、幅広い方が求人に応募してくるようになりました。」と宮川社長。賃金の引き上げが人材確保の難しさへの有効な打開策になっていることを実感している。

賃上げと持続的な経営の両立にあらゆる手を尽くす

賃金を引き上げようとしても、その原資がなければ持続的な経営は成り立たない。宮川社長は、その原資を生み出すべく攻めの経営に取り組んでいる。まず、新たな設備を導入することで、業務の効率化を図ってきた。同社が業務改善助成金を活用して導入したブラストチラー、フリーザーにより、食品を冷却する時間を10時間から6.5時間に短縮。これにより、食品調理作業を通常の勤務時間内に完結させることができるようなった。今後は、介護施設等に配送・配膳する事業を開始する予定だ。新事業の開始に合わせ、食品を予め配膳の上冷却し、食事前に加熱することができる設備の導入を検討しており、配送先において配膳などに必要となる作業を省略することを目指している。
また、賃金引上げ原資の確保のため、収益を見込めない事業の規模を縮小させたことにより、結果的に企業としての収益性を高めることにつながった。
さらに、改めて取引先との間で原価と収益性に照らして価格交渉を行った結果、販売単価を高めることができたことも収益性を高めることに貢献している。同社が事業を行う食堂での調理事業では、同業他社が撤退した影響もあり契約価格を見直すべく交渉をしたところ、意外なことに受け入れられたことがあった。これまでの取引価格を見直すチャンスをいかし、原価や人件費などの必要経費に見合った取引価格にすることができたこともまた、同社の経営力の強化に繋がっている。

賃上げで、働き手からも選ばれる企業に

令和6年度の福島県の地域別最低賃金額は955円。同社は既に最も時給の低い従業員でも時給1000円以上となっていることから、最低賃金の引上げへの対応にはある程度余裕がありそうだ。しかし、宮川社長は、目先の賃上げだけではなく、その先を見据えている。「政府は2020年代に最低賃金を全国平均で1500円にすることを考えている。最低賃金の引上げの流れの中、これに先んじて賃上げを行い、人材を確保していかなくてはならない。」と宮川社長。毎年大幅に上がり続けていくと見込まれる地域別最低賃金額を上回る賃金を支払うことができる経営体力を備えるため、今後も既存事業の効率化や製造人件費を考慮した価格の設定、従業員に複数の業務を担当してもらうことによる効率的な働き方の追求に取り組み続ける。宮川社長は、「これまでは、雇う方が『これぐらいの給料を提示したら働き手に集まってもらえるだろう』と考えた賃金を提示していたが、今は違う。雇用される人の考えに合った賃金を提示しないと働き手に選んでもらえない時代になっている。」と語る。取引先から選ばれるだけでなく、賃金を引き上げられる企業となることで働き手からも選ばれる企業であり続けられるよう、社長の挑戦は続く。