賃金引き上げに向けた取組事例

CASE STUDY 61
賃上げ取り組み事例

伊藤鉄工株式会社

金属プレス加工製品の製造販売

2025/3/31

社員の生活を守り、安心して働いてもらえるよう賃上げを実施。
価格転嫁などの取組も進める。

company 企業データ
  • ●代表取締役社長:伊藤 暢宏
  • ●本社所在地: 埼玉県川口市
  • ●従業員数:95名
  • ●設立:1931年
  • ●資本金:6,000万円
  • ●事業内容: 建築用のマンホール、排水トラップ、鋼製グレーチング等の「管材製品」、ツリーエレガンス、フェンス、照明灯等の「景観材製品」等の製造販売

「伊藤鉄工株式会社」の歴史は、ストーブ製造から始まる

創業当初は、「愃王ストーブ」のブランドで、国内での販売のみならず朝鮮半島や満州(現在の中国東北部)まで輸出を展開。昭和24年(1949年)には排水用鋳鉄管の製造販売を、昭和30年(1955年)に建設用鋳鉄機材の製造販売を本格的に開始。昭和60年以降は、皇居照明灯、改装前の東京駅ステーションギャラリーゲートをはじめとした多くの景観材製品の製作を手掛けるようになり、鋳物特有の風合いや加工のしやすさを生かした製品づくりを始める。また、従来の常識を覆す厚さ2mm未満のダクタイル鋳造を可能に。この技術は鍋やフライパンの製造に応用されている。
同社の強みは、高い技術力と首都圏に生産拠点を持っていることで、タイムリーに顧客の要望に応えることができるところにある。

「うちの会社で働いていて、生活が苦しいという思いはさせたくない」

同社は、令和5年に平均5.3%、令和6年に平均5.8%の基本給ベースアップを行った。このほか、賞与もアップしているため、年当たりの賃上げ率は10%を超える。特に若手社員を中心に賃上げを行っており、若手社員はさらに高い賃上げ率となっている。
このような賃上げに至った背景には、賃上げに対する社会的な機運の高まりがあったことはあるが、昨今の物価高を考慮し、社員の生活を守り、安心して働いてもらえる会社にしたいという社長の思いからだ。

賃上げの効果として、働く社員のモチベーションが向上した。若手・中堅の中には、仕事に追われるのではなく、仕事を追いかけるように意欲的に働く社員も出てくるようになり、生産性も向上した。また、経験と技術が必要な業種であるため、パート・アルバイトはほとんど採用しておらず、正社員の採用を行っているが、継続的に採用ができており、人材確保の点においても効果が現われている。

これだけの賃上げを可能にした一番の大きな要因は、価格転嫁が適正にできたこと。公的なデータの提示や現状の説明などをした上で、取引先に理解を求め、販売価格上昇の交渉を進めた結果が功を奏したことは確かだが、環境にも恵まれた。建設業界全体が価格転嫁しやすい状況にあった。これは業界大手のリーダーシップに拠るところが大きい。いわゆる「価格転嫁指針」が示され、コンプライアンスが叫ばれる中にあって、業界大手が適正に価格を上げる姿勢を見せたことで、業界全体として価格転嫁がしやすい環境が整った。

もちろん、価格転嫁以外にも、材料費のコストダウン、外注の内製化、設備投資による生産性の向上といった経営努力も怠らない。特に、老朽化した設備を刷新し、生産効率を上げるのに相当の額を要しており、政府や地方自治体の支援策も活用した。中でも「ものづくり補助金」は3回活用して、造型機などの設備を導入した。

持続的な賃上げは、どこまでできるかわからないが、まだできる余地はあるという。例えば、ITがもっと使いやすくなり、コストも下がれば、もっと生産性を向上させることができる。人が担当している工程では、どうしてもその日の調子によってブレが生じるが、ここに機械を導入することで安定的な生産が可能になる。

経営には、必ず成功する「成功方程式」のようなものはない。今後、さらなる生産性向上を図り、それにより得られた収益によって賃上げを図ることにより、従業員が満足して働くことができる企業に成長していきたいという。

従業員の声

Aさん

私は生産管理の仕事をしています。会社からは、賃金が上がる時に、何がどのくらい上がるのかを具体的に説明してもらいました。きちんと説明してもらえると、がんばったことがきちんと評価されていることがわかり、純粋にうれしいです。賃金UPに繋がっていくことで、仕事に対するモチベーションは向上しますし、仕事の質も違ってきます。会社に有り難みを感じています。

Bさん

私は、経理事務の仕事をしています。賃金が上がったことで、生活にゆとりができたので、感謝しています。また、私には子どもがいるのですが、急な対応が必要な時にも有休が取りやすく、またリモート対応もできるので、働きやすさという観点でも、とても良い職場です。